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連載 東京不思議迷子 第1回 「市ヶ谷監獄」

東京不思議迷子 第1回 「市ヶ谷監獄」
写真・文 インベカヲリ★ 
ゲスト 桜城 雅(霊感の強いお方 ライター兼バンキャ)
Posted on 2011.9.10 SAT

じりじりじりじり……。

日差しがアスファルトに照り返し、 まるでフライパンの上を歩いているような暑さの中、 本日も迷子になるべく都内を歩きまわってきました。

おっとその前に、お伝えしておきたいことが一つ。 今まで、月2回の更新をしていた東京迷子ですが、 今号からプチリニューアルし、 半月に一度は、東京不思議迷子となることになりました。 不思議迷子では、東京近郊のいわくつきな街にスポットを当て、 霊感の強い人と共に、その地を歩いてみたいと思います。 ちなみに私は霊感まったくナシ。 見たり感じたりするのは、 お供してくれる方に全部お任せしたいと思います!



さて、今回一緒に歩いてくれる、霊感の強いお方は、 桜城 雅さん(年齢不詳)。 ライター件バンギャという、プロフィール共々怪しさ満点のマダムです。 霊感に目覚めたのは、なんと2年前。 守護霊が入れ替わったことが原因らしく、 それと同時にピンクの服ばかりを着るようになったとか。 今はもっぱら生霊に取り憑かれているらしく、 「生霊がくると、頻尿になるのよ」と、 わけの分からないことを語ってくれた。 「みんな死んだ霊が怖い怖いって言うけど、生霊のほうが怖いのよ。 だって、生きている霊は、追い出しても追い出しても、 またやってくるんだから」 そう言うと、おもむろに袖をめくりあげ、腕を見せてくれた。



「このプツプツは、生霊に取り憑かれると出てくるの。 治療してだいぶ治ったけど、次から次へと出てくるのよ」 見れば、痛々しいデキモノが、腕や指などのあちこちに出来ている。 「病院で原因不明といわれたものは、 生霊の可能性を疑ってみたほうがいいわね」

なるほど。

それにしても、生霊に取り憑かれるほど、 人の恨みを買っているのだろうか。 「人に妬まれやすいのよ。仕事もあって、結婚もしていて、 子供もいると、何でも持ってると思われやすいのね。 夫が会社員でバンドマンっていうのも、やっかまれる理由かも。 ライブハウスへよく行くんだけど、ビジュアル系の追っかけの中には、 40歳過ぎて未婚なんていう女性も少なくないの。 そういう女性たちは20代の頃からずっと追っかけをしてるから、 仕事も安定してないし、結婚も出来ないし、 情緒不安定になりやすいのよ。 そういう人たちが、無意識に気を飛ばしてくることがあるの」

バンギャの人間関係が、生霊問題にまで発展するとは、
なんとも複雑だ。



そんな桜城さんと歩く、真っ昼間の曙橋。 新宿区にある曙橋は、 元フジテレビがあった場所としても有名な街ですが、 実は曙橋駅を出てすぐの一帯は、明治8年から昭和12年まで、 「市ヶ谷監獄」と呼ばれる巨大な刑務所だったのです。 この地で死刑執行された囚人の数は290名。 さらに明治14年までは、 首を刃物で切り落とす斬首刑も行われていたそうです。 今ではすっかり一軒家やマンションが密集する住宅地で、 その姿は見る影もありませんが、 本日は古地図を頼りに、その跡を辿ってみたいと思います。

曙橋駅からまっすぐ伸びる坂道。 古地図の見方が正しければ、 ここは当時、護送車が刑務所へ入るために使った道のはず。 道路を挟んで左が市ヶ谷監獄、 右には永井荷風の邸宅があったそうです。



坂を上った先にある、余丁町1丁目の駐車場に残されたレンガ。
ネットの情報によると、 これが現在、唯一残された監獄の塀だとか。 当時は5メートルの高さで囲われ、 しかもその塀は囚人が作ったというから驚き!



市ヶ谷監獄で死刑執行された有名人には、 明治の毒婦と称された高橋お伝、 強盗殺人犯として逃げ回り、稲妻小僧の異名を持つ坂本慶二郎、 大逆事件で、冤罪との話も出ている幸徳秋水と他12名、等がいる。 高橋お伝は特に、病気の夫を支えるため娼婦になったり、 斬首の際に大暴れしたなど数々の伝説を残しているため、 桜城さんも興味津々だった。



「あっちの木の茂みに何か感じる!」と、突然立ち止まる桜城さん。 しかしあっちは監獄の向かい側だ。 「じゃあ、いいか」と、そのまま進む。



こちらは監獄側にある「余丁町児童遊園」。 中に入るなり、 「あら、ここは何も感じないわ」とあっさり。



公園の片隅には、 日本弁護士連合会の方々が建てたという死刑者慰霊塔があり、 この場所が処刑場であったとの噂もある。 しかし、処刑場は当時の富久町66番地とのデータもあり、 古地図と照らし合わせると、どうも場所が合わない。 桜城さんは「何も感じない」と、ここでもやっぱり言い放った。



公園を出て監獄の塀をなぞるように、歩いてみる。 カンカン照りの都心の住宅街は、怖さのかけらもない。



「家がいっぱい建ってるから、気が弱まっちゃってるな」と、桜城さん。 新しい人々の生活が始まると、 その人たちの気が上書きされていってしまうのだとか。



処刑場のあった富久町66番地らしき場所は、 広範囲すぎて特定するのが難しい。 しかし桜城さんは、時たま立ち止まると、 何かモヤモヤしたものを感じているようだった。



道を間違えて、監獄の外側を歩いていると、 紐で縛られた謎の家を発見。 しかも警視庁と書かれた黄色いテープが張られている。 いったい何があったのか。



さらに見渡すと、そこらじゅうにボロボロの空き家が存在した。 新旧交わる街並みに、桜城さんは一際興味を示している様子。 「この辺一帯は、霊的な意味じゃなくて、何か奇妙な感じがする!」



どうやら再開発が進められている土地らしく、 あちこちの家や公園が立ち退きを迫られているようだった。 囚人のように番号を付けられた木々たちは、 根こそぎ引っこ抜かれて別の地に移動させられるのだろう。



特別悪い気を感じることなく、監獄歩きは続く。 それにしてもこの辺は坂道が多い。 炎天下で体力はみるみる消耗し、 塩分をたっぷり含んだ汗をトロトロ流しながら、 数分置きに「……暑い」とつぶやく私に比べ、 桜城さんは、長袖なのに涼しい顔をしていた。 体力あるなあ。



監獄のすぐ隣にある「自証院」。 江戸の古地図にも記されている、古いお寺だ。 お坊さんがいれば市ヶ谷監獄について聞けるかもしれないと期待したが、 人はおらず代わりに仏像が出迎えてくれた。



「『ありがとう』って言ってる。なんのことだろ?」
突然、仏像の声を聞き始める桜城さん。 「あ、最近はあまり、お寺に入って来る人がいないからか」 なんとも切ない言葉である。



塀の外を一周したので、今度は監獄の中を歩いてみることにした。
この晴れやかな光景からは、当時の様子などまったく想像がつかない。



監獄のど真ん中に位置する「小石川工高」は、校舎の建替工事中。



監獄を壊してすぐ後に出来た古い家たちは、
もうほとんどないのかもしれない。



角っこに置かれた意味深な石柱。 注意深く歩いていると、 何かの跡らしき古いものが頻繁に見受けられる。



つづいては、市ヶ谷監獄から離れ、 近所に眠っている死刑囚、 稲妻小僧こと坂本慶二郎の墓を見に行くことにした。



中に入ると、お坊さんらしき人がいたので、 坂本慶二郎のお墓を探している旨を話すとすぐに案内してくれた。 お墓にはなんと、「稲妻小僧之墓」と、そのまんま書いてある!



お坊さん曰く、坂本慶二郎は、北海道の網走刑務所から脱獄し、 昨日は青森、今日は東京にいるぐらいのスピードで逃げ回ったことから、 稲妻小僧と呼ばれたのだとか。 しかし実際には稲妻小僧の名前に便乗した、 別の犯罪まで押し付けられただけで、 本当にそのスピードで移動していたかは定かではない、とのこと。 また当時、墓石の欠片を持ち帰ると「捕まらない」との噂が立ち、 各方面の人々が欠片を持っていったことから、 墓石がボロボロになり、新しく作り直したという経緯もあるそうだ。

突然現れた私たちに、親切に説明をしてくれたお坊さん。 しかし、どうも私と、全身ピンクの桜城さんに引いている気がしてならない。 会話の区切りごとに、かならず困った顔で作り笑いを見せるのだ。 もしや警戒されているか!?  いや怪しいものではないんです、と言うわけにもいかずに ソワソワしながら、そそくさとお寺を後にする。

「稲妻小僧はけっこう念が強かったわ」と桜城さん。 えっ、そうなんだ!? お坊さんばっかり気になって何も考えてなかった。 「私たちがお寺を出るまで見つめてた印象ね」
ひょえー!! 
でもそう言われると、ちょっと親近感沸くかも。

一方の市ヶ谷監獄は、特別な何かはなにもなかったそう。 「そもそも心霊スポットって、みんながいるいるって言ってると、 その気持ちが新しい念を作り上げちゃうものなのよ。 今日みたいに、あまり監獄跡ってことが知られていなくて、 次から次へと新しい人の生活が始まっていると、 どんな念でも弱まってくるの」

なるほど、じゃあ、 あまり気にしないで生活したほうがいいってことか。
「そりゃそうよ。でも今日は、地縛霊がいなくて残念だったけど」
いやいや、霊はいなくて結構。
自分でこの企画を考えておいてなんですが、 私はかなりの怖がりなんです……。

というわけで、東京不思議迷子はこれからも 見るからな心霊スポットは行かない予定です。 あくまで明るく元気に歩きたいと思います!



※ 旧市ヶ谷監獄(現在の新宿区曙橋周辺)です。


より大きな地図で 旧市ヶ谷監獄付近 を表示

写真・文 インベカヲリ★ ゲスト 桜城 雅(霊感の強いお方 ライター兼バンキャ)

撮影カメラ・レンズ
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